捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした
彼が中学へ通うようになってからは会う頻度はぐっと減ったが、母親同士の仲がよかったため、たまに交流があった。
きっと受験合格も母を通じて知ったのだろう。わざわざお祝いを届けてくれたのだ。
同級生の男の子とは違い物腰の柔らかい修平は当時大学二年生で、中学生の凛にとってはとても大人に見えた。
一緒に遊んでもらっていた頃のように「修ちゃん」と呼んでいいのかわからず、お礼を言うのも恥ずかしくて小声になったのを、母に笑われたのを覚えている。
「彼は就職を機にひとり暮らしを始めたので、もう十年近く疎遠ですけど」
「……妬けるな」
ぼそりと呟いた亮介の声を聞き逃してしまった凛が隣を見上げると、彼は苦い顔をして髪を掻き上げた。
「昨日の弟さんの件といい、その幼なじみといい、自分がこんなにも嫉妬深いとは思わなかった」
ひとり言なのか凛に聞かせたいのかはわからないが、仕事中だというのに不覚にもドキッとしてしまった。