捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした
3.近づく距離
「アイシャドウは四色パレットが八種類あります。今使用したのは一番ベーシックなベージュを基調としているパレットで、オンオフどちらでも使用できるようなカラーに仕上げています。発色がよく、ラメ感とパール感が強く出ますが、粉飛びしないというのが売りになります」
十一月中旬。亮介から結婚を提案されてから二週間が経った。
凛は副社長室にある応接セットのソファに腰掛け、白いケープを巻かれて大人しく目を閉じ、説明する声に耳を傾ける。
新ブランドのサンプルが仕上がり、開発部の責任者である山本が説明にやって来ていた。
会心の出来だという商品を熱心に説明していた彼に対し、スウォッチだけでは全体の統一感やバランスが見えにくいと亮介が主張したため、急遽凛がモデルとなってサンプルを使ったデモンストレーションが行われている。
説明しているのは山本だが、凛にメイクを施しているのは以前販売部に在籍していたという四十代の女性社員だ。百貨店で美容部員として働き、産休育休を経て開発部へ異動したらしく、十五分ほど前に慌ててやって来た。
「左上の下地にパールが仕込んであり、最初に塗ることで密着力を増しつつ華やかさを演出できます。次に左下のベージュをのせて右下の締め色を際に引くとオフィス仕様ですね」
島田と名乗った彼女はさすが元美容部員だけあって手慣れた手順でメイクを施していく。