捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした

発言の意図がわからずに聞き返すと、亮介は自嘲気味に笑ってデスクに広げられた資料をトントンと揃えた。

「……いや、今のは聞かなかったことにしてくれ」

その仕草を見ながら、凛は今聞いたばかりの彼の言葉を脳裏で反芻した。

『合格祝いにリップをもらった時よりも?』

まるで彼が学生の頃にリップをくれた修平に対抗しているかのようで、心臓がドクンと大きく跳ねた。とても聞かなかったことになんてできそうにない。

弟の大志の件や修平からのプレゼントの話といい、亮介はあからさまに嫉妬や独占欲を滲ませる。そうして意識させられるたび、自分でもなぜか説明ができないほど亮介に惹きつけられている。

「念のため色持ちや色移りの経過も見たい。悪いが今日はしばらくメイク直しを控えてくれ。外に出る予定はなかったよな?」
「は、はい、大丈夫です。承知しました」
「新ブランドのお披露目まであと三ヶ月を切ったか。どれだけ反響をもらえるか、楽しみだな」

意気込む亮介を見ながら、凛はふと不思議に思った。

(女性を素敵に変身させるアイテムを生み出す副社長に、どうして女性嫌いなんて噂があるんだろう)

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