捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした
普段はできるだけポーカーフェイスに努めている凛だが、新作コスメでメイクしてもらったことでテンションが上がっていたのかもしれない。頭に疑問が浮かんだのがわかりやすく表情に出たようで、亮介が「なんだ?」と首をかしげた。
「いえ、その……」
「今は休憩中だ。なんでも思ったことを話してくれていい。仕事のことでも、プライベートなことでも」
そう促され、凛はおずおずと口を開く。
「副社長が女性嫌いだという噂を耳にしたことがあるのですが……」
「あぁ、堅物だなんだと言われているようだな。まぁ事実だし、気にもとめていないが」
「事実、ですか? 女性を美しくする商品をこんなに熱心に作り上げていらっしゃるのに……?」
「女性に対する理想と現実のギャップに疲れてしまった、とでも言うのか。昔から俺の見かけや家柄に寄ってくる女性が多かったせいか、外見を華やかに飾る彼女たちを美しいと思う一方、内面が伴わない部分に気付くと、どうも冷めた目で見てしまうようになった」
凛の問いかけに、亮介は淡々と答えてくれた。
「どれだけメイクや服装で美しく飾り、俺の前では清楚に振る舞っていても、腹の中では周囲に自慢できる恋人がほしいだけの女性ばかりだった。入社してからはこの立場もあって一切親しい女性を作らなかったが、俺と婚約していると周りに吹聴したり、弄ばれたからと慰謝料を請求してくるようなのもいたな」