捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした
軽く話しているが、想像するだけでげんなりする過去を聞き、亮介のこれまでの女運の悪さに驚きを隠せない。
「その点、君は内面の美しさが滲み出ていた」
「わ、私ですか……?」
「堅物と呼ばれる男のサポートなど気苦労も多いだろうが、懸命に俺を支えようとしてくれた。そんな君を秘書として評価しているし、原口や近藤に執拗に貶められても毅然と前を向いていた姿に惹かれたんだ。思わず手を差し出したくなるほどに」
「副社長……」
唐突な結婚の提案は、互いにとってメリットがあるからと亮介から持ちかけられたものだ。完全な損得勘定での申し出といった口振りだったのに、まさかそんな風に思ってくれていたとは。
(だからあの時、恋人のフリをして助けてくれたんだ。どうしよう。私、めちゃくちゃ嬉しいって感じてる……)
ここ数日で、亮介に対する感情を見て見ぬふりをするのは限界を迎えていた。
まだ孝充から別れを告げられて一ヶ月も経っていないというのに、思いもよらないスピードで上司である亮介に惹かれている。
浮気をして裏切った孝充に非があるとはいえ、なんだか薄情な気がするが、それが偽りのない本心だ。
もはや孝充との別れで負った傷など少しも残っていない。凛の頭と心を占めているのは、亮介ただひとりだけ。