捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした
じっと見つめると、立ち上がった彼がデスクを回り込んで凛の目の前に来た。
毎日見ても飽きないほど美しく整った容貌を持つ亮介が、熱い眼差しで凛を射すくめる。
身動きが取れず、視線さえ逸らせない。ただ彼にリップを塗ってもらった唇だけが、異常なほど熱を持っている気がした。
「立花、俺は」
――――コンコン。
凛に手を伸ばした亮介がなにか言いかけたが、副社長室の扉をノックする音にかき消された。止まっていた時間が急に動き出したように、凛も亮介も反射的に仕事の顔になる。
しかし、直前までこれ以上ないほど高鳴っていた鼓動だけはどうにも落ち着かない。
「入れ」
ノックに応じた彼の言葉を聞きながら、入ってきた山本と入れ替わるように副社長室を出た。