捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした

(メイクされていたから、まだコーヒーすらお出ししてなかった)

足早に秘書室に向かいコーヒーを頼もうとしたが、今は二月に控えた創立記念パーティーの準備で誰もが忙しい。空席が目立ち、自席に座ってる秘書も電話を片手にメモを取っていたり、稟議書を作成していたり、暇そうに雑誌をめくる芹那以外に手が空いてそうな人はいない。

自分で淹れてもいいのだが、開発部との打ち合わせに同席して必要ならば議事録を取ったり、話を聞きながら今後のスケジュールなどの練り直しなど細かな調整をしたいため、離席時間はできるだけ短くしたい。

凛はため息をつきたくなるのをグッと堪え、仕方なく芹那のファンシーなデスクへ近付いて声をかけた。

「近藤さん、副社長室にコーヒーをふたつお願いできますか」

領収書や名刺の整理、他店のデータ管理など、なにを頼んでもすべてスルーされてきたが、さすがにコーヒーくらいは淹れられるだろうと思った。しかし芹那の態度は凛の想像をはるかに超えていた。

「なんで私が?」
「すみません、私はすぐに副社長室へ戻らないとならないので」
「私も流行りのスイーツの情報を調べるのに忙しいんですけど。こういう手土産の情報、秘書には必要なので」
「それは今じゃなくてもいいですよね」
「……色気づいてる暇があれば、コーヒーくらいご自分でやったらどうですかぁ? 急に服とか髪型とか変えてますけど、今さらだと思いますよ?」

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