捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした
あからさまに凛をバカにした言葉を使い、可愛らしい顔を歪めて笑う。芹那のあまりの言い草に、咄嗟に言い返すこともできずに唖然とする。
いくら妊娠中とはいえ、出社している以上は仕事をしてもらわないと困る。ただでさえ妊娠を理由に重い資料の整理やおつかいなどはさせないよう配慮しているのだ。
芹那の言葉を耳にした他の秘書からも、彼女を咎めるような視線が送られた。誰もがひと言言ってやりたいと感じているものの、本来ならその役割はチーフである孝充の役割だと我慢しているのがわかる。
しかし孝充は自席から動く気配はない。
さすがに堪忍袋の緒が切れた凛は、できるだけ感情的にならないように言葉を選んで芹那に反論した。
「あなたはグループ秘書として同僚をサポートするチームに所属しているんです。経験が浅いので先回りしてできないにしても、頼まれたことはきちんとすべきです」
「はぁ? どうしてそんなこと立花さんに言われないといけないんですかぁ?」
「言うべき人が言わないなら、他の誰かが言わないといけないでしょう。言われたくないのなら、最低限の仕事はしてください」
当然ながら〝言うべき人〟というのは孝充のことである。
彼がなにを考えて仕事をせずに秘書室内の雰囲気を悪くしている芹那に注意をしないのかはわからないが、そろそろ限界だった。