捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした

そう感じていたのは凛だけではないらしく、それまで電話をしていた恵梨香や他の秘書数人からも賛同の声が上がった。

「立花さんの言う通りよ。上司から注意をするのを待ってなにも言わなかっただけで、いい加減みんな迷惑してるの」
「近藤さんはあと二週間でやめるから仕事を覚える気がないんだろうけど、それでもできることはあるでしょう?」
「なんなんですか、急に。一番若い私が結婚して退社するからって、そういう嫉妬剥き出しで攻撃してくるの、どうかと思いますけど」
「はぁ?」
「ちょっと、どういう思考回路してるの?」

芹那の常識外れな言い分に、これまで我慢していた秘書室の面々の怒りがヒートアップする。特に恵梨香は今にも掴みかかりそうな勢いで、凛は慌てて彼女の肩に手を置いた。

態度を改めてほしいとひと言注意して終わるはずが、このままでは周囲を巻き込んでしまう。

芹那には元恋人を寝取られたり退職を迫られたりと浅からぬ因縁があるが、ここは職場で今は就業中なのだ。

個人的な感情は置いておいて、ただ頼んだ仕事をしてほしいだけで、事を荒立てたいわけではない。

(こんなにみんなの不満が溜まってるのに、どうしてチーフはなにも言わないの……?)

凛と同じ考えを持ったであろう恵梨香は、芹那に言っても埒が明かないと悟ったのか、孝充へ睨むような視線を向けて「どうにかしてくださいませんか」と言い放った。

< 87 / 217 >

この作品をシェア

pagetop