捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした

「これじゃ秘書室内の空気が悪すぎです。それとも林田室長に直接ご相談した方がいいですか?」
「空気を悪くしてるのは先輩たちじゃないですかぁ?」
「ちょっとあんたは黙ってて」

苛立たしげに恵梨香が言い放ったと同時に、廊下から低く芯のある声が凛を呼んだ。

「立花」

誰もが振り返る絶対的な存在感のある声は、どんな喧騒の中でも凛の耳に届く。

「今終わった。来られるか?」

凛は驚きに目を見開く。

(えっ、もう……?)

まだこれから限定色についての打ち合わせがあるものだと思っていたが、想定以上に早く終わってしまったようだ。

普段から仕事中は感情の乗らない彼の声だが、今はそれが冷たく響いて聞こえる。

「は、はい」

秘書室内の会話が聞こえていたのか、山本が申し訳なさそうな顔をして会釈し、エレベーターホールへ消えていった。

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