捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした
すると、デスクに腰掛けていた亮介がおもむろに立ち上がった。
「立花、そろそろ返事をくれないか」
唐突に告げた亮介の声は、凛が思わずドキッとするほど色気を帯びていた。いくら定時を過ぎているとはいえ、あまりに職場にはそぐわない声音だ。
言葉ほど焦れた様子は見られないが、その眼差しは凛を逃すまいと射るようにこちらを見つめている。
「こういう時、上司でなく夫なら一番に頼れるだろう。俺が夫では不足か?」
「不足なんて、そんな……」
「じゃあ一体なにに迷っている? 原口に未練はないと言ったな。それならば互いに結婚するメリットはあるし、君となら穏やかな家庭が作れると思う」
畳み掛けるように告げられた言葉に、胸の奥からわずかに軋む音がした。
(やっぱりこれはお互いにメリットがあるから提案された契約結婚なんだ……)
改めてその事実を突きつけられ、凛は高鳴る鼓動が急速に失速するのを感じた。
これまで半年ほど亮介の秘書としてそばで働いてきたが、彼を男性として意識したことはない。