捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした
孝充という恋人がいたこと以上に、リュミエール創業者である士郎の孫にあたり、将来は社長の椅子に座るのが約束されている御曹司の彼は凛にとって雲の上の存在で、ときめいたり異性として意識することすら恐れ多いと思っていた。
しかし突拍子もないプロポーズを受けて以来、堅物と呼ばれるほど仕事にしか興味を示さなかった亮介が、凛に対しての接し方をガラリと変えてきた。
厳しいのは相変わらずだが、業務の合間のふとした瞬間に見せる彼の表情はこれまでにないほど柔らかい。それは大勢でいる時ではなく凛とふたりきりの空間でしか見せない顔で、自分が特別な存在なのだと思い知らされているような気がした。
他にも、亮介は凛に男性の影が見えると嫉妬心や独占欲をあらわにする。そんな様子に心を揺さぶられ、孝充と別れてまだ日も浅いというのに、たった数日で亮介に惹かれている自分に驚きを隠せない。
「これは……いわゆる契約結婚というものなんですよね?」
恋愛感情の絡まない、利点など条件に照らし合わせた結果の婚姻契約に過ぎない。それなのに凛が一方的に亮介に好意を抱いている状態だなんて、辛くなるのではないか。
(それに、もしかしたら結婚しなくても仕事を辞めずに済むかもしれない……)
芹那が妊娠は嘘だと秘書室の社員の前ではっきり明言したのだ。彼らの結婚話がこのまま進むとはとても思えない。ふたりの将来がどうなろうと知ったことではないが、芹那は孝充と付き合っていた凛に退職を迫っていて、だからこそ亮介が恋人のフリをしてくれたし、結婚の提案にも至ったのだ。