捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした
このまま彼らの結婚が破談になれば芹那から退職を迫られる謂れはなくなり、凛が結婚する理由はほぼなくなる。
それならば結婚の話はなかったことにしてもらい、秘書に徹した方がいいのではと迷いが生じてきた。
けれど、亮介の返答はそんな迷いも吹き飛ばしてしまう。
「君はそう思ってもらって構わない。ただ俺は君を妻として生涯大切にし、愛したいと思っている」
静かな声で語られた彼の言葉は、厳かな教会で聞く神聖な誓いのようだった。
孝充の裏切りに始まり、浮気相手である芹那からの嫌がらせ、結婚したいがために妊娠したと嘘をついていたという先程の爆弾発言など、目まぐるしいほどイレギュラーな出来事の連続で、平静を装っていても心がこれまでにないほど疲弊している。
そんなところに毎日顔を合わせる極上の男性から結婚を提案され、まるで深い愛情があるかのように口説く真似をされれば、その魅惑的な誘いが常識外れだとわかっていても甘えてしまいたくなる。
四人きょうだいの長女で、さらに母子家庭で育った凛は人に甘えることが苦手だ。
けれど、亮介は言った。
『頑張り屋で我慢強いのが立花の長所でもあるが、君を大切に思う周囲の人間はもどかしく感じているはずだ。わがままになれという意味ではないが、もっと周りに頼ったり甘えたりする術を覚えろ』
その相手として自分を選んでくれると嬉しい、とも言ってくれた。