捨てられ秘書だったのに、御曹司の妻になるなんて この契約婚は溺愛の合図でした
「……もう少し、試してみるか」
なにを、と訪ねようとした言葉は、彼の唇に飲み込まれた。
ふにっ、と柔らかく重なった唇は、凛が数回瞬きををしている間に離れていく。
たった今口づけられた場所に視線が注がれ、亮介の親指がそっと唇の縁をなぞった。
「なるほど。かなり優秀なリップだな」
キスでリップの色持ち具合を試したのだとようやく理解が追いついた凛は、こんな時まで仕事を考えている亮介に少しだけ拗ねたい気持ちになった。
結婚を承諾したのも、キスをしたのも、自分だけがドキドキしているのだと思い知らされた気がする。
「立花?」
「……女性が苦手だと仰っていたのに、慣れていらっしゃるのだと思いまして」
自分でも思っていた以上に声が低くなった。まるで彼を責めているような口ぶりになってしまい、慌てて訂正しようと続けて口を開く。