キミと掴む、第一歩。
 窓から入ってきた風が、頬を撫でて通り過ぎてゆく。薄茶色の彼の髪がふわりと揺れた。


「笑わ……ないよ」


 笑うわけない。笑う要素なんてどこにもない。


「プロなんて馬鹿げてる、なれっこないって笑うんじゃないの」
「笑うわけ、ないよ……!」


 つい声が大きくなる。でも、本心だった。
 こんなに才能があって、サッカー選手への道が大きくひらけているような彼を笑う要素なんて、どこを探したって見つからない。


「それと、同じでしょ」
「え」
「史倉の夢と俺の夢、何が違うって言うの?」


 ごくりと唾を呑む。痛いところを突かれたからだ。ずっとずっと自分に言い訳をして、逃げてきた部分を言い当てられてしまったから、なにも言えなくなる。


「だって小説家は、実力だけの……っ、世界だから」
「サッカー選手だってそうだよ」
「プロなんてっ、夢のまた夢だから」
「サッカー選手も同じ」
「小説家は、有名じゃないと収入が安定しないから……」
「それも同じ」


 てか、収入とかこの歳で気にしてんの────と。

 呆れたように笑った瀬尾くんは、「とにかく」と目の前で腕を組んだ。


「俺は史倉を応援する。クラスのやつらに見せろなんて言わないから、たまに俺にだけ見せてよ」
「……」
「まだ面白くないとか言う?」
「……」
「じゃあ、言い方変える」

 唇を噛んでうつむいたわたしを見て、史倉くんはため息を落とす。そして、「史倉」ともう一度名前を呼んだ。
 同時に、上がる視線。その先には、今にも消えそうな柔らかい表情をした史倉くんがいた。


「史倉の小説、好きだよ」
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