キミと掴む、第一歩。
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「きり……ゆーきーり」
「はっ……! たまちゃん」
「まったく、物思いにふけるのはほどほどにしてよね」
「あ、うん。ごめん」


 目の前でヒラヒラと手を振るたまちゃんに謝ると、「何かあったの?」とたずねられた。

「ううん、別に。何もないよ」

 たまちゃんは、わたしの過去を知らない。小説のことすら、話していない。
 たまちゃんを信用していないわけではないんだけど、どうしても過去の記憶がよみがえって言うのをためらってしまう。
 こういうのはきっと、ひっそりやるべきなんだ。本名じゃない名前を名乗って、どこに住んでいるどんな人かも分からないミステリアスな作家になるべきなんだ。


「最近のゆきり、どこかボーッとしてるからさ。心配してるんだよ」
「ありがとう、たまちゃん」

 ふ、と息をついて水筒のお茶を飲む。


「もしかして……好きな人でもできた?」
「っ!! ゴホッ、」


 "好きな人"というワードについむせてしまうわたし。それを見たたまちゃんは「ちょっとホントに?」と瞳と声音にからかうような色を含んだ。
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