キミと掴む、第一歩。
 わたしだけじゃない。学校のみんな、瀬尾くんのことが大好きだけど。
 瀬尾くんに彼女がいるという話も、いないという話も聞いたことがない。


 ……いないわけが、ないよね。


 冷静になって考えてみれば、こんなに素敵な男の子に彼女がいないなんてありえない。公にはしないだけで、こっそり付き合っている子がいるのかもしれないし……いや、絶対にいるだろう。


「あの……瀬尾くんってさ」
「ん?」

 小さく首を傾けた瀬尾くんに、慌てて首を振る。


「あ……いや、やっぱ、なんでもない」


 適当に誤魔化して、やり過ごす。
 なんで聞かなかったかと言われると、うまく答えることができない。なんでか知らないけど、嫌だったのだ、なんとなく。


 瀬尾くんから「彼女がいる」と、はっきりと言葉にされるのがこわかったわけではない。
 ふたりきりの世界で、胸に生まれたこの気持ちが壊れるのがこわかったわけではない。


────断じて。
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