キミと掴む、第一歩。
 飛び出そうな心臓に「大丈夫」と言い聞かせて、来た道を戻る。けれど一向に見つからなくて、ついに教室に到着。ひやりと背中を汗が伝う。
 ドアからそうっとのぞいてみて、息が止まったような気がした。


「ユキリって……ああ、あの人か」
「無口な人だよな」
「こんなモン書いてたとか意外だわ」
「これ結構なネタになるくね?」


 それはまさに、数年前の繰り返し。
 もういっそ、神様はわたしに小説を書くなって言ってるんじゃないか。そう思えてしまうほど、運命は残酷だ。

 面倒ごとに巻き込まれないよう関わらないようにしつつも、視線だけはちらちらとノートの方へ向いている女の子たち。会話はばっちり聞こえているはずだ。クスクス、チラチラ、人を嘲笑う時にする仕草が、じゅうぶんに示していた。

 返して、って言ったところで、今登場したら笑いものにされるだけだ。どうやら、詰んだ、ってことらしい。


「おとなしそうに見えて、普段こんなモウソーしてるってコト?」
「やばぁ」
「少女漫画の読みすぎだろ」


 バカにされていく。わたしのせいで、わたしが好きな先生たちもバカにされていく。
 自分たちだって、アニメを夢中でみてるくせに。あんなにすごい物語を生み出せる人間は、希少価値なのに。


 じわじわと涙の膜がはって、心臓がギュッと締め付けられる。苦しくて、今にも逃げ出したかった。けれど、足だけが固まったように動かない。
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