キミと掴む、第一歩。
「ちょーどよかった。瀬尾! これ読んでみろよ」
「まじウケるからさ」
「モウソー小説ってやつだよ」
「お前のとなりにいるシクラさんが書いたやつだよ」


 ぎゃはは!と笑う男の子たちを見ていると、また涙が溢れそうになる。けれど、ぎゅっと力強く手を握られて、途端に涙はひっこんだ。


「それなら問題ないよ」


 にこっ、といつも通りの王子様スマイルを振りまいた瀬尾くん。こんな緊迫した状況でも、女の子たちはうっとりしてその顔を見つめている。


「問題ないってどういうことだ?」
「問題ありまくりだろ!」


 汚いものをもつように、指先でノートをつまむ男の子たちに近寄った瀬尾くんは、無言でそれを奪ってわたしに渡した。

 それから教室全体を見渡すようにくるりと振り返ると、「もう、ぜんぶ読んだから」と告げる。

 一瞬の沈黙のあと、男子たちの笑い声が大きく響いた。


「なんだそれ! 瀬尾、これぜんぶ読んだの? 吐かなかった?」
「ありえねえんだけどぉ」


 口々にそう洩らす彼らを一瞥した瀬尾くんは、ずっと無言を貫いている。
 そしてクラスが少し静かになったところで、

「黙れよ」

 と放った。
 その一言だけで、一気に空気が変わる。

 それもそうだ。いつも笑顔で、誰にでも優しい瀬尾くんが、そんなふうに、相手に圧をかける言葉を使っているのだから。
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