キミと掴む、第一歩。
「何が違うんだよ」
ぼそりとつぶやいた瀬尾くんに、クラスメイトたちが「え」と固まる。
「史倉が小説家を目指すのと、俺がサッカー選手を目指すことの、何が違うんだよ」
息の音すら聞こえない。クラスメイトの喧騒、あざ笑うような視線を鋭く切り裂くように、凛とした声が響く。
「俺はみんなが応援してくれるから、大好きなサッカーを頑張れる。でも、もしみんながサッカーなんてやめてしまえ、かっこ悪いって言ったとしたら、俺はここまで続けられてない」
落ち着いた口調で、ひとつひとつ丁寧な言葉を続ける瀬尾くん。
クラス中のみんなも一心になって、瀬尾くんを見つめている。
「みんなが俺を応援してくれるように、俺は史倉を応援する。田中のことも、袴田のことも、応援する。俺たちは、人の夢を馬鹿にするために一緒にいるんじゃない」
今の今までバカにして笑っていた田中くんも袴田くんも、気まずそうにうつむいている。
息を吸って、瀬尾くんは続けた。
「俺は頑張ってる史倉が好きだよ。がんばってるやつの応援して、何が悪いんだよ。もうガキみたいなことやめて、みんなで応援しよう。それが友達だろ?」
ああ、わたしは彼のことが好きだと。
この瞬間、はっきりと自覚した。
最初から、抗うことなんてできなかったのだろう。彼のまっすぐさにみんなが惹かれるように、わたしもまた彼の強さに惹かれてしまった。
「お前ら、史倉の小説最後までちゃんと読んだ?」
「読んでねぇ、けど」
「内容をしらないのにバカにしてたなんて、どんだけカッコ悪いの。ちゃんと読んで、史倉の実力知ったらたぶんそんなこと言えなくなると思うよ」
「瀬尾くん!!」
そんなこと言ったら、またハードルが上がっちゃうよ。たいしたものじゃないのに、また。
ふ、と息を吐いた瀬尾くんは、まっすぐわたしに向き直って鋭い光を飛ばした。今まで優しく包み込むようなまなざしだったのに、今はなんでも突き刺してしまいそうな瞳だ。