キミと掴む、第一歩。
「俺は史倉のことが好きで、気に入られるために嘘を言って褒めてるとでも思ってるの? 面白くもない小説を同情心で読んであげてるとでも思ってるの? 悪いけど、俺ってそんなにいい人じゃないからね」
「そ、そんなことは」
「俺、嘘つくの下手だから。正直なことしか言えないんだ」

 それはなんとなく、分かってた。代名詞『まっすぐ』みたいな人だから。


「いい加減、信じてよ。好きだって言ったじゃん」


 向けられた瞳は、揺れていた。

 ああ、そうか。
 疑うって、こんなに相手を傷つけることなんだ。

 言ってくれる言葉を否定して、守ってくれる状況を拒んで、また被害者ヅラするんだ、わたしは。
 なんてカッコ悪いことなんだろう。

 自分が許せなくて、お腹のあたりがモヤモヤして、全部吐き出してしまいたくなる。もうこんな弱い自分、やめたい。
 新たな自分になるための第一歩を、踏み出したい。

 スウッと息を吸って、目の裏に瀬尾くんを思い浮かべる。わたしは一人じゃない。だからきっと大丈夫。


「たしかに小説を書くのが好きな子は少ないかもしれないけど……でも、わたしはもう隠さない! もうバカにされてもいい! ただし、ちゃんと読んでからバカにして! 読まないのに批判ばっかりしないで!」
「そのこと、なんだけど」


 ふいに、男子の大群の中にいた一人が口を開いた。金山伊織(かなやまいおり)くんだ。
 金山くんはいつも無口で、少し冷たいところがある。けれど、その冷たさが逆にいいと、意外と女子人気が高かったりする男の子。瀬尾くんと同じサッカー部なのだと、誰かから聞いたことがある。


「俺、さっき序盤だけ読んだんだけど。割と面白そうだったから、次は俺に読ませてよ」
「えっ……」
「言っとくけど、俺ははじめから批判とかしてないし。遠慮なく読ませてもらうよ」


 わたしの手からするっとノートを抜きとり、椅子に座って黙々と小説を読む金山くん。
 一人、またひとりと彼に近づいて、同じように小説を読み出した。


「……シクラ、さん」


 名前を呼ばれて、田中くんと袴田くんに向き直る。


「……悪かった」
「もう言わねぇよ」


 ぺこりと頭を下げた二人は、それから顔を真っ赤にして金山くんのほうへと近寄っていった。
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