キミと掴む、第一歩。
「ゆきりちゃん、ご飯食べちゃいなさ〜い。冷めちゃうわよ」
「あ、はーい!」

 夢中で書いていたお話は、恋愛モノ。やっぱり恋ってキラキラしててすごく憧れるし、ヒーローはかっこいいし……。
 そんな素敵な世界のヒロインになれたら、って思っちゃうんだ。

 わたしの小説を読んだ人が、まるでその中に入り込んだみたいに夢中になってほしい。読者に、本当の自分とは違った世界を旅させる。それが、小説の存在意義だと思うから……なんてね。

 タタッと階段を駆け降りてリビングに行くと、もうお兄ちゃんが椅子に座って夕食をとっていた。


「おそ。今まで何してたんだよ」
「しゅ、宿題。そう、宿題してた!」
「あ、そ。なら別に焦る必要ないじゃん」
「そ、そそそうだよね、うん」


 小説を書いていることは誰にもヒミツ。お兄ちゃんはもちろん、お母さんにすら言っていない。
 理由はなんとなく、恥ずかしいから。言おうと思った瞬間は今までに何回かあったけれど、いつもタイミングが合わなくて結局失敗に終わってしまった。
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