キミと掴む、第一歩。
「瀬尾くんにとってサッカーはすごく大切なものでしょ。わたしにとっての小説と同じくらいに」


 だとしたら、わたしが同じ状況になったら、「やめたらいいよ」なんて言われたくないと思うんだ。だって、どうがんばってもやめられないことは本人が一番分かっているだろうから。

 好きで、好きすぎてたまらないのだから。

 もしわたしが瀬尾くんの立場だったとき、かけられたい言葉、それは。


「サッカーしてない人生なんていやでしょ、瀬尾くん」


 小説を書いていない人生なんていやでしょ、雪莉。なんのために生きているのか分からなくなるでしょ。
 それはきっと瀬尾くんも同じことが言えると思った。


「すごくつらい道をたどることになっても、たぶん瀬尾くんはここでサッカーをやめたほうがたくさんたくさん後悔するよ」
「……っ、それは」
「がんばった先の結果が思い通りじゃなかったらって考えるとすごくこわいけど……でもわたしは瀬尾くんのおかげで、がんばろうって思えたから。瀬尾くんも一緒にがんばろうよ」


 これが、精一杯。それでも瀬尾くんが首を横に振るのなら、もう諦めようと思っていた。本人が望んでいない過度な努力を強いるのはよくない。


「史倉」


 ふいに、名前が呼ばれた。さっきみたいに震えてはいない。まだ弱々しいけれど、たしかに芯を持った声だった。


「ありがとう」


 それだけ。たったそれだけで、思いは届いたんだとわかった。瀬尾くんの目の中に、もう一度まっすぐな光が宿っていた。

 何が正解で、何が間違いだったのか分からないけれど、最終的に瀬尾くんは希望を取り戻してくれた。わたしは役目をちゃんと果たせたんだ。
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