キミと掴む、第一歩。
 声をかけにいきたい気持ちはぐっと堪えて、グラウンドをあとにする。
 わたしはわたしのやるべきことをするんだ。瀬尾くんがああやって自分の進む道を必死に進んでいるように。わたしも彼みたいに自分の道を。


 スラスラ、スラスラ。
 彼がモデルなんじゃないの?と言ってしまいたくなるくらいに。はっきりと浮かんでしまうヒーロー像。
 迷いなく、ノートに文字が書き込まれていく。頭の中のアイデアがどんどん文字になって、形になって、ひとつの作品がつくられていく。



 文字数はあっという間に応募資格を満たした。けれど、問題は。


「どうやって応募しよう……」



 原稿の送り方に苦戦。どうがんばってもわたし一人の力じゃ無理だ……となると、どうしても家族の力は必要。

 小説のことを打ち明ける必要があった。



 クラスメイトには言えたけれど、家族にいうのはまた違ったハードルがある。いちばん言いやすい距離にいて、いちばん言いにくい相手。
 それが、家族。


「おいゆきり、手止まってるぞ?」
「えっ……あ、うん、ごめん」
「別に謝れってわけじゃないけど」
「……ごめん」


 何か言おうとしたけれど、わたしの顔を見て口を閉じたお兄ちゃん。お父さんもお母さんも顔を見合わせて、なにやら合図を送り合っている。

 夕食の席なのに、美味しいはずのご飯の味がまったくしない。最近流行りの某感染症、ってわけではなくて。
 クラスメイトに打ち明ける時は瀬尾くんと一緒だったから乗り越えられたけれど、こればっかりは一人で向き合わないといけない問題だ。
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