キミと掴む、第一歩。
 後半戦が始まっても、点数は変わらず。あろうことか、相手に一点を決められてしまったのだ。
 瀬尾くんがいない分の負担がすべて金山くんにまわって、金山くんの体力もそろそろ限界を迎えようとしている。

「金山くんがんばってー!」
「かーなーやーまーくーーーん」
「ファイトー!」

 これしかできない。わたしたちには、応援することしかできない。声を張り上げて、声援を送ることしかできない。無力感に、気持ちがどんどん落ち込んでいく。
 そのときだった。


伊織(いおり)ーー!! がんばれーーー!!」


 ひときわ目立つ、声がした。嫌な空気を切り裂く、まっすぐな声。
 女の子にしてはちょっと低いけど、芯があってしっかりした声。わたしがよく聞く声。

 そうだ、わたしたち観客は。
 応援すること"なら"できる。
 応援されることが、どれほど力になるのか、わたしは身をもって体験したはずだ。


「え!? 三上さん!?」
「まさか金山くんの相手って……」
「よかった! 男の子じゃない!」
「まだあたしたちにもチャンスあるよ!」


 口々にそう洩らす女の子たちは、たまちゃんに続いて声を出す。


「金山くんがんばれー!!」
「いけるよー!」
「田中ー! あんたも踏ん張りなさいよー!」


 途端にぐぐっとスピードが上がった金山くん。それと、田中くん。


「田中!」
「おうっ!」

 田中くんからパスを受けた金山くんは、右に左にとドリブルで相手をかわして、遠くの位置から鋭いシュートを放った。勢いよく飛んでいったボールは、キーパーを抜けてゴールネットに突き刺さる。

「きゃぁぁぁぁ」
「かっこいい!!」


 黄色い声援が上がる中、汗を拭った金山くんはまっさきにたまちゃんを探し出して、「ありがとう」と笑顔を浮かべた。その瞬間、周りの女の子たちは「勝てない」と悟ったみたいで。

「残るは瀬尾くんだけだよぉ」
「金山くんは三上さんにゾッコンじゃん」

 と嘆いては「俺がいるだろ!」と騒ぐ田中くんをしばいていた。
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