キミと掴む、第一歩。
「きゃぁぁぁぁ」
「やばい!!」

 会場のボルテージは最高潮。みんなが瀬尾くんに駆け寄って、勝利を噛み締めている。
 ああ、やっぱりわたしは彼が好きだ。そう自覚する。


 サッカー部の輪からひとり抜けてきた瀬尾くんは、観客席に向かってくる。そして。

「雪莉」

 邪魔しないようにと帰る支度をしているわたしの名前を呼んだ。


「瀬尾くん…! おつかれさま」

 アタフタするわたしを見上げて、「ありがとう」と笑みを浮かべるその顔は、どこか金山くんのそれ(・・)に似ていた。

「あの……足大丈夫、なの?」
「ああ、たぶん問題ない。大丈夫」
「ちゃんと病院いってね…?」
「うん。わかった」


 違う。そんなことが言いたいんじゃなくて。


「……カッコよかったよ」

 絞り出すような声で言うと、少し目を見開いた瀬尾くんは、照れたように頭の後ろを掻いた。

「頑張ったかいがあった」
「すごく……素敵だった」
「めっちゃ褒めてくれるじゃん」


 だって本当にすごかったから。こうしてちゃんと試合を見たことがなかったから、余計に。

「監督には、俺のわがままで出してもらったんだ。だから結果残さないとな」
「でも、すごく心配した」
「ドキドキさせてごめん」


 色んな意味の、ドキドキだけど。
 心の中でそんなことを思っていると、ふいに視線を落とした瀬尾くんはそのまま黙り込んでしまった。
< 57 / 65 >

この作品をシェア

pagetop