気高き暴君は孤独な少女を愛し尽くす
まさか黒菊の娘だとは、さすがに想像していなかった。
似ているなと思った矢先に、相手がこの世の終わりみたいな顔をしたのですぐ確信できた。
そのとき純粋に『可愛い』と思った記憶がある。
つい直前まで、人形みたいに別の客を見送ってたくせに、不意を突かれたらこんな表情になっちゃうのか。
さて、どうして黒菊の娘がこんな店に?
黒菊はそこそこでかい名家のはず。
今はどの家も昔と比べれば衰退傾向にあるが、生活が苦しいほどの状況なら界隈でとっくに話題になっているだろう。
社会勉強?
いやまさか。
接客に対して一生懸命さは感じるけど、表情も固いし声も小さい。
がちがちに緊張しているのがまるわかり。
この手の仕事に向いているとはとても思えなかったし、恐らく彼女自身もそれを自覚したうえで働いている。
わざわざここで働かなくてはいけない理由が、まあ、なんかあるんだろうな。