気高き暴君は孤独な少女を愛し尽くす

……と、黒菊家の娘の事情に対してはなんの興味も湧かなかった。

だけど、叶愛のことは不思議と目で追ってしまう。


あの薄っぺらくて下手くそな笑顔をどうしても崩したい衝動に駆られて。

ちょっと意地悪でもしてやろうかな、と、気づけば指名していた。


いざ一生懸命に接客されると、優しくしたいのと酷くしたいのとがぶつかって、新しい妙な感情が生まれた。


───そのときはまだ、愛と呼ぶには暴悪すぎたと思う。



意志のない人形みたいな女だと思っていた。

少し怒ったふりをしてみせれば『ごめんなさい』とすぐに謝って、令嬢のくせにまるでプライドがない。


人の声に簡単に流されながら弱々しく生きていくんだろうな、と。

可愛いと思う裏で、どこか冷めた目でも見ていた。


それはさておき。

黒菊家はともかく、叶愛自身は金がないようだし……と。

なんとなく80万を投げた。

同情というより、世のオタクが推しアイドルに貢ぐ感覚に似ていたと思う。

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