気高き暴君は孤独な少女を愛し尽くす

それとも実の娘を易々差し出さなければいけないほど事業が危うい状況なのか。


恐らく両方だろうな。

書面にサインを走らせる手を見ながらそう思った。

汚い家だと罵りさんざん敬遠しておきながら、結局はどいつもこいつも京櫻の言いなりだ。

辟易する。



こんな流れで叶愛との婚約を承諾されても、全くいい気分にはならなかった。


まあいい。

叶愛と黒菊を引き離してしまえばもうこの家に用はない。


「待ってくれ」


話が終わったので席を経とうとすれば引き止められ。

てっきり娘をよろしくとか、父親らしいことを言われるのかと思いきや。



「事業提携の話は喜んで受けるが……、お宅との婚約の話は公にしないでいただきたい」



一応、予想はしていた。
周りの家からの体裁を保つためだろう。

そりゃあ、京櫻の息子との政略結婚で事業の安定を図った、だとか噂されたら溜まったもんじゃないだろうな。
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