気高き暴君は孤独な少女を愛し尽くす
よかった。
思えばそこまで心配する必要はなかったのかも。
街一番の権力を持つ京櫻家の息子さんが、社交会で一度会っただけの女の下の名前まで記憶しているはずがない。
「まー黒菊の娘なわけねえな。あの子、今年でまだ十七とかだろ」
「……っ」
ようやく鼓動が穏やかになってきたところで、再び爆弾を落とされた。
……どうして年齢を知ってるの?
社交会で顔を合わせたことがあるとはいえど、私はただお父さんの陰に隠れて会釈をしただけ。
こんなに綺麗な人がいるのかと驚いて本当は話してみたかったのだけど、この街の名家の大半は悪名高い京櫻家と関わりたがらず。
うちも同様に、軽くあいさつを終えるとものすごい勢いで離れた場所へ連れていかれた記憶がある。
「きゃーっ! 歴さんお待ちしておりました、どうぞ中へ!」
私の絶体絶命な状況なんてもちろんつゆ知らず、
お店の奥から、突き抜けるように明るいきらりさんの声が飛んできた。