気高き暴君は孤独な少女を愛し尽くす


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「叶愛ちゃん……!」


ある金曜日の朝、昇降口付近で聞き覚えのある声に引き止められた。

すぐに誰だかわかって――顔をあげることができなかった。


蘭野くんだ。

親の都合で婚約が破談になってから学校で顔を合わせるのは始めてだった。


……ううん、嘘。

クラスは違えど、時おり廊下やホールですれ違うことはあったけど、私はわざと気づかないフリをしていた。

生徒集会の解散時に声を掛けられたときは、申し訳ないと思いながらも喧騒で聞こえないフリをして人混みに紛れて。


本当に感じが悪いと思う。

思うけど……。


だって、どういう顔を向けていいかわからない。


婚約が急に破談になったことを謝罪するつもりなんだろうけど、悪くない蘭野くんに頭を下げさせるなんてどうしても嫌だった。


私の学力や教養、おそらく容姿なんかも含めて相応しくないと判断されただけ。

謝られると、むしろ惨めになる気しかしない。
自分がその程度の価値しかない人間だということを、違う形で肯定されているようで。

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