気高き暴君は孤独な少女を愛し尽くす
「ご注文は何になさいますか? おすすめは……──」
メニューを開こうとした手は、京櫻さんによって阻止される。
「ねえ、スタッフさん。この子にシャンパン入れたいんだけど一番高いのどれ?」
え? 今なんて……。
びっくりしたのもつかの間、スタッフさんが普段より数倍明るい笑顔で彼の足元に跪いた。
「はい。当店ではエンジェルのホワイトになりますが、ノアちゃんはまだ“19歳”ですのでこちらのノンアルシャンパンなどいかがでしょう」
「へーえ、酒飲めない歳だったんだ」
そう言いながらも、少しも意外だとは思っていなさそう。
むしろ、二十歳以下だとわかったうえで尋ねたようにも見えた。
もはや本当の年齢すら見透かされているような気さえしてくる。
正体はバレてない……はずだよね?
というか、京櫻さんだってわたしと歳はあまり変わらないイメージだったけど、何歳なんだろう?
そもそもどうして私を指名したの?
高いドリンクまで入れて、いったい何を考えてるの?
相手は“あの”京櫻の息子さんなので、頭が不安で埋め尽くされていく。
初めて入れてもらったノンアルシャンパンは、なんの味もしなかった。