気高き暴君は孤独な少女を愛し尽くす
「ねえ、名刺ちょうだい」
当たり障りのない会話をしている途中に、突然、脈絡なくそんなことを言われ。
「今、切らしてて……」
と、咄嗟に嘘をついてしまう。
できればもうお店で顔を合わせたくない。
ノアという名前も、今日限りで忘れてほしかった。
「ふうん、そう」
「はい。申し訳ありませ……──ひゃあっ?」
声が出たのは、京櫻さんが制服に手を忍ばせてきたから。
正確には、エプロンとスカートの隙間。
なっ……ええっ?
容赦ない手つきに、布の上からでもびくっと腰が浮いてしまう。
「んん……、っ、やぁ、」
「しー……」
色っぽくたしなめられて、さらにパニックに陥る。
「敏感なのカワイーけど、仕事中に恥ずかしい声出しちゃだめだろ」
「っ、だっ、て京櫻さんが……。あのっ、やめてください」
ここはVIPルーム。
壁で仕切られていて、外からは中が見えないようになっている。
スタッフさんは私が呼ばない限り入ってこないし、
用心棒さんは「入口で待ってろ」と京櫻さんに言われて出ていってしまった。
「俺に嘘つくなんて肝が据わってるな」
ふたりきりの空間に響いたのは、くすりと笑いを含んだ声。