気高き暴君は孤独な少女を愛し尽くす


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今日も長い一日だったな……。

終礼のあと、教科書の角を揃えながらそっとため息を吐く。



ついに、今日から蘭野家での生活が始まってしまう。

十九時に黒菊家に迎えの車が来るという話。



ただ、起きて、学校に行って、帰って、眠っての繰り返し。

目の前に映る景色全部、モノクロの映像を見ているみたい。


蘭野くんとの婚約が決まってからというもの、最近は、暴力を受けることがなくなった。


どうせあと数日で家を出ていく娘を痛めつけても無意味だと思ったのかもしれない。


皮肉な話、痛みがあれば、生きているんだって少しは実感できるのかな……なんて考えた。



今は暴力を振るわれることもなくて、疲れた体で夜遅くまで働きに出る必要もないのに、

離れでまろんと暮らしていたときのほうが幸せだったように感じる。

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