気高き暴君は孤独な少女を愛し尽くす


「――叶愛様」

暗がりから突然声が聞こえ、心臓が縮まった。


見ると、門前に誰かが立っている。
俯いて歩いていたせいで全く気づかなかった。


ゆっくり近づいて、見知った顔であることを確認する。


本邸の使用人さんだ。

わざわざ私の住む離れの屋敷まで来たってことは……。


ひどく嫌な予感が足元から這い上がってきた。



「お久しぶりでございます。お元気でしたか?」

「……。どういったご用件でしょうか」


離れに”追いやられた”娘に、お元気でしたか?……か。

本人はそんなつもりはないのかもしれないけど、皮肉的に受け取ったはずみでつい冷たく言い放ってしまう。



「旦那様より大事なお話があるとのことで、叶愛様に本邸までお越しいただきたく、お迎えに参りました」

「え……? 今から……、ですか?」

「はい。よろしいですか?」


さすがに予想外の回答だった。
ずいぶんと急な話。一体何があったんだろう。
< 28 / 271 >

この作品をシェア

pagetop