気高き暴君は孤独な少女を愛し尽くす

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久しぶりの本邸は、やけに酸素が薄いように感じる。


「待ちくたびれたよ」

張り詰めた空気の中、不機嫌を顕にした相手に頭を下げた。


「すみません、お父さん」


すると、すかさずその隣から鋭い睨みが飛んできてハッとする。



「相変わらず言葉がなっていないのね、あなた」

「っ、申し訳ございません。お父様、お義母様」



長いあいだ本邸を離れていたせいで気が緩んでいた。

そうだっだ。私が父を“お父さん”と呼んでいたのは、もう何年も前の話だった。



「それで、お話とは一体何でしょう……?」


息をするのも憚られるほどの空気に耐えきれず、自ら尋ねてしまう。


「とりあえず座りなさい」

「……はい」


ふたりの厳しい視線に包まれながらだと、座るという単純な動作さえ緊張した。



「単刀直入に言うが、結婚が決まった。相手は蘭野(らんの)の息子だ」


──それはあまりにも唐突で。

自分の身に関わる話だと認識するまでにも、かなりの時間を要した。
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