気高き暴君は孤独な少女を愛し尽くす
そういう話の……問題じゃない、のに。
頭がくらくらして、目の前の景色が渦巻いた。
「そんな……あんまりです」
私の悲痛な訴えに振り向いたのは、父ではなく義母だった。
「何が“あんまり”なの? この家を出ていくのは、あなたがずっと望んでいたことでしょう?」
「……───、」
言葉を失う。
同時に、頭の中がすうっと冷静になった。
そう……かもしれない。
この家で存在を疎まれ続けた挙句、顔を見たくないからと離れに追いやられ。
世間体を繕うために上流階級ばかりが通う学校へ入学させられたものの
学費と生活費は自分でどうにかしろと切り捨てられ。
黒菊の品位を落とさないよう学力を保ちつつ高い学費を払えるだけのお金を貯めるために、睡眠を削って、食事を削って。
それだけの仕打ちを受けておいて、まだこの家に残りたいなんて思うはずがない。