気高き暴君は孤独な少女を愛し尽くす

だったら、婚約の話なんて喜んで呑んでしまえばいいのに。


──私は、何に対して“嫌”だと感じてるの?


考えてみてもわからなかった。

それらしい異議を表す言葉すら思いつかないまま、ひとり残された部屋で項垂れる。


そんなときだった。

コンコンコン、と、ノック音が三回響いたのは。


父と義母が戻ってきたのかと思い、背筋にピンと力が入る。

はい、と小さく返事をすれば扉が開いた。



「叶愛お姉ちゃん、久しぶり……」


思いがけず目を見張る。

顔を覗かせたのは瑠衣(るい)──父と義母の息子であり、私の、半分だけ血が繋がった弟。



「瑠衣だめ、自分の部屋に戻って。私と話したことがバレたら怒られちゃう」

「大丈夫。あの人たち、オレはもう寝たって思い込んでる」

「でも……」


不安を拭えないでいると、瑠衣は距離を詰めてきて。


「ごめんね、結婚の話、オレのせい」


憂いた表情でそんなことを言い始めた。
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