気高き暴君は孤独な少女を愛し尽くす
呼吸を封じられる。
何が起こったかわからなかった。
「………、………え?」
間抜けな声を上げたときには、歴くんの目はもうスマホに向いていて。
そのまま誰かに電話を掛け始めた。
えっと、今、たしかに唇が触れ───。
あれ……?
「うちの歴君がすいません。自由奔放で野生の獣ばりに身勝手な男なんですよ」
運転席から声がかかる。
先週、歴くんと一緒にお店に来ていた用心棒さんだ。
「おれも歴君に振り回されて毎日ヘトヘトで」
「え、……はあ……」
「十年以上この人に仕えてるんですけど、未だに何考えてんだかわかんないんですよね〜」
「そう、なんですか」
歴くんと同い年くらいに見える彼の話は、右から左へ抜けていく。
ものすごい時差を置いて、唇がようやく熱をもった。
さっきの、は、キス……だった。
「っ、送っていただきありがとうございました! 失礼します……っ!」