気高き暴君は孤独な少女を愛し尽くす

逃げるようにして車を降り、お店の裏口まで振り返らずに走った。


キス……キス、って……ええっ?

なんでなんでなんで……っ?


こんなに動揺したのは人生で初めてかもしれない。

先日、お店に歴くんが現れたときも、蘭野くんとの婚約を言い渡されたときもかなり驚いたけど、それを遥かに超えてきた。


これまでの人生、驚くといったら血の気が引くようなことばかりだったせいか、血液が滾るほどの高揚感に私は耐性がないみたい。


扉を開けたつもりがうまく取っ手を掴めていなかったようで、指先がスッと空を切り。

その反動で、勢いよく額をぶつけてしまう。


漫画のような気の動転っぷりに赤面しながら、再度ゆっくり試みる。


無事お店の中に入ったはいいものの、今度は足元からすとんと力が抜けた。

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