気高き暴君は孤独な少女を愛し尽くす

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幸い顔など、目に見える部分の傷はあまりなかった。

首を絞められたのはほんの一瞬。
父はそのあとすぐにハッとしたような顔をして部屋を出ていったので、痕は残っていない。


学校で先生に怪我が見つかって問題になったらまずいと思ったんだろう。
怒り心頭でも、その辺の抜かりがないのはさすがだ。



……大丈夫。

婚約が破棄されただけで、私自身はふりだしに戻ったにすぎない。
元から家に居場所なんてなかった。


学校ではクラスメイトと普通に会話をするし。

MAPLE PALACEにはきらりさんという優しい店長がいて、少ないけど私に会いに来てくれるお客様もいる。


今までと何も変わらないはずなのに……どうしてか、心が鉛みたいに重い。



――『死んだのがお前だったらよかったんだ!』


父のセリフが何度も頭をよぎる。

眠っていても夢の中で同じ光景が繰り返されて、そのたびに目が覚める。

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