気高き暴君は孤独な少女を愛し尽くす

だめ、このくらいで憂鬱、だなんて。

お給料をもらってるんだから、嫌がってないで少しでも接客スキルがあがるように努力しなくちゃ。


そう言い聞かせて、顔に軽くパウダーをはたく。

目元はメガネで隠れるから、薄くシャドウをつけるだけ。
あとはほんのりチークと、仕上げにリップ。


他のキャストさんみたいにまつ毛を上げてマスカラを塗ったり、カラコンを付けたり、きらきらラメを散らばせたり。

本当はやってみたいけど、毎月かつかつの私はメイク用品にあまりお金をかけられない。



それに……。


『隣を歩かないでくれる? あなたみたいな不細工な子の母親だなんて、死んでも思われたくないんんだけど』


ふと、意識の中に入りこんできた苦い記憶をすぐさま振るい落とす。


お仕事中なんだからこんなこと思い出してる場合じゃないよね。今日も頑張ろう……っ。


無理やり自身を奮い立たせ、鏡に向かって一度だけ笑顔の練習をしてから休憩室をあとにした。
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