気高き暴君は孤独な少女を愛し尽くす
すぐそばで人の動く気配がした。
「目ぇ覚めたなら声掛けろよ」
まるで存在感のなかった鼓動が、急にはっきり音を立てる。
あ、れ……?
この声……聞き覚えがあるような。
しかもまだ、記憶に新しい……。
「それとも喋れなくなっちゃったか」
視線を隣に移して、一度瞬きをする。
どうして、この人が……?
気だるいため息をひとつ零した彼が、ゆっくりと立ち上がった。
「記憶は? 俺のことわかる?」
「………れ、きくん」
「そう、正解」
急に優しい声になり、小さい子の相手をするみたいに私の頭を撫でた歴くん。
反対の手には、そんな言動とは似合わない代物があった。
「歴くん……煙草、吸うんですね」
「付き合いで始めただけだし、お前が嫌ならやめるよ」
「ううん、大丈夫……です」