気高き暴君は孤独な少女を愛し尽くす
今気づいた。メガネがない。
急いで上体を起こした。
枕元に置いてあるのかと思ったけど……見当たらない。
「メガネなら邪魔だったから捨てた」
「っ!」
パニックになる。
コンクリの壁といい、奥に見える事務用デスクといい、
生活感のない室内でひとつ異様な存在感を放っている黒ソファといい……
ここは京櫻組関連の事務所に違いない。
黒菊の人間が、のこのこと足を踏み入れるような場所じゃない。
私のばか。
呑気に煙草の話なんてしてる場合じゃないよ……っ。
どうしてかわからないけど、歴くんは私を介抱してくれた。
そのことには感謝してもしきれないし、返金の代わりに体を差し出すという約束も忘れてない。
しっかり果たすつもりでいる。
だけど、メガネも化粧も剥がれ落ちた“黒菊の娘”でしかない今、
彼のそばにいるにはリスクが高すぎる。