SENTIMENTALISM
eight
これから語られることをあたしは一字一句聞き逃さないように、ぎゅっと握り拳をつくった。
そして、握った自分の掌がジワリと汗ばんでいくのがわかる。
本当は耳を塞ぎたい。
今すぐ逃げ出したい。
綺麗なままのカタチを覚えておきたい。
だけど、このままじゃ
すべてがいつか色褪せていく思い出になっていくのだろう。
慧斗のことも、梨紗のことも、綾子さんのことも、玲のことも
"そんなこともあったね"
で終わらせたくはない。
傷を恐れていては何ひとつ守れやしない。
あたしは虚像に拳をいれるのだ。