SENTIMENTALISM



「慧斗の父親は有名会社の社長で、慧斗は子供のとき何不自由なく暮らしていたらしい」

慧斗のお父さんが大手の社長?
そんなことまったく知らなかった。
慧斗は自分のことを話そうとしないから。

いや、慧斗だけじゃない。
ここにいるみんな、自分のことを語りたがらないし聞いてこない。
思えば、あたしはこの場所のそんなところに居心地の良さを感じていたのだと思う。

踏み込まれない生温さと安心感に。


「だけどある日突然会社が倒産して財産も残さず行方がわからなくなった。母親は中学の頃に病気で死んだらしい。いわば慧斗は飼い主に捨てられた野良猫状態。行くあてもなく道端でガタガタ震えていた。それを偶然綾子が見つけたんだ。そして、綾子は慧斗に食事を与え家を与えた」


あたしは目線を泳がせて、今自分が立っている部屋を見渡す。

「そう。この家だ」

「………だから、責めなかったの?」

「そうだ。綾子がいなければ、アイツは今頃野垂れ死んでた」

「………信じられない」

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