それでもキミと、愛にならない恋をしたい
「……本当は、他人に触るのが怖いんだ」
私と繋いでいる反対の手で自分の顔を覆いながら、先輩がぽつりと弱音を零す。
「菜々には『本音と建前って、みんなあると思う』なんて言っておきながら、俺が一番それを怖がってた」
その声の頼りなさに胸が締め付けられた。今までどれだけ悩んできたんだろう。
「少なくとも私は、先輩が私の心を読んでくれたおかげで救われました。きっと聞くに堪えない感情だったはずなのに、先輩はずっと手を繋いでいてくれた。やっぱり私は、先輩に対してありがとうって気持ちしかないです」
「俺は別になにもしてない。菜々の悩みを解消できたわけでもない」
「それでも、私にとっては嬉しかったんです」
心の中を読まれたのは恥ずかしいけれど、そばにいてくれた優しさに救われたのも事実なのだから。
先輩に苦しんでほしくない。うまく伝えられないのがもどかしくて、私の心を全部明け渡すように、握られた手をきゅっと握り返した。すると、先輩の手が驚いたようにビクッと跳ねた。
「……もう誰にも失望したくないし、勝手に本音を覗く罪悪感に押し潰されたくない。でも、菜々はいつも俺の心を軽くしてくれる」