それでもキミと、愛にならない恋をしたい

 先輩が顔を覆う指の間から、必死で言い募る私を横目で見た。その熱い眼差しに、胸の奥がぎゅうっと甘く痺れる。

「菜々に触れたい。手を繋ぎたいし、抱きしめたい。ずっとそう思ってた」

 鼓膜を震わす先輩の言葉が、現実のものとは思えなかった。

 本当に? それはどういう意味?

 だって楓先輩は文武両道で、学校の人気者で、優しくて思いやりのある素敵な人。そんな先輩が、私に触れたいって、だ、抱きしめたいって思うのはどうして?

 これまで何度も掠めた期待が再び頭をもたげてくる。

 私が言葉を返せないでいると、繋いだ手はそのまま、先輩は自分の顔を覆っていた手を私の頬に伸ばし、ぷにっと摘んだ。

「どういう意味もなにも、菜々が好きだから触りたいってことだよ。わかるだろ」

 呆れたような、怒ったようなぶっきらぼうな言い方だった。

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