それでもキミと、愛にならない恋をしたい
本当ならお父さんに同じ質問をするべきだと思っているけど、いまだに聞けないでいる。
もしも『菜々のお母さんよりも真央を好きになったから』なんて返事が返ってきたら、私は一生お父さんを許せないかもしれない。だけど、そう思っていてもおかしくはない。結婚は、一番大切に思っている人とするものなんだから。
お母さんの存在だけではなく、結婚するほど好きだった感情ごと全部忘れてほしくない。その気持ちをなくしてほしくない。そうじゃないと、お母さんがかわいそうだ。
でもお父さんは、その気持ちをどこかになくしちゃったってことなんだよね。お母さんが死んじゃった時点で、その気持ちはなくなってしまうということなの……?
「菜々がすっかり女子高生になったって、亜紀ちゃんもビックリしてるだろうね」
「……上から毎日見てるんだから、ビックリはしないよ」
「ははっ、そっか。そうだね、きっとずっと見守ってくれてる」
お父さんは声を弾ませてそう言うけど、再婚して幸せに暮らしているのを見守られ、罪悪感はないんだろうか。
真央さんがいい人なのはわかってる。私がリビングに寄り付かず、食事やお風呂を終えたらすぐに二階にあがる時、少し寂しそうな笑顔で見守っているのも知っている。
だけど私がお父さんの再婚相手と仲良くしていたら、お母さんは悲しむんじゃないかと考えたら、彼女と親交を深めようとは思えない。まして『お母さん』と呼ぶ気なんて起きなかった。
結局、お母さんの墓前に立ってる間もモヤモヤとした考えは払拭できず、私は「この辺でお昼食べて帰ろうか」と柄杓の入った手桶を持って歩き出すお父さんのうしろ姿に黙ってついていった。