それでもキミと、愛にならない恋をしたい

 あれだけカッコよくて優しい先輩に、これまで彼女がいないと考える方がおかしいのかもしれない。予想していたはずなのに、実際に聞くと想像以上にショックを受けた。

 苦しくて、制服の胸元をぎゅっと握る。唇を噛みしめて俯いた私を慰めるように、京ちゃんが肩を抱き寄せてくれた。

「菜々がいるのに、学校を休んでまで元カノのお墓参りに行く? 普通」
「それとこれとは別でしょ。幼なじみなら家族ぐるみの付き合いもあっただろうし、命日くらいはそっちに行くんじゃない?」
「それなら、せめてひと言言ってくれたらいいのに……」
「あいつにだって、きっと色々思うところはあるよ。原口が亡くなってまだ二年なんだ。その何倍も一緒の時間を過ごしてきたんだから……って、ごめん、菜々ちゃん」

 気遣うように謝られても、なにも言葉が出てこない。口の中がカラカラに乾いて、水分とともに声まで奪われてしまった気分だった。

 先輩に、事故で亡くなった恋人がいた。

 その事実は、まるで鉛を飲み込んだみたいに胸を苦しくさせ、心を圧迫していく。

< 148 / 272 >

この作品をシェア

pagetop